築85年超古民家、設計完了から施工への一歩
あれから、気づけば一年半以上が経ちました。この築85年を超える古民家での暮らしを通して、私たちはこの家が抱える不便や可能性をじっくりと肌で感じ取ることができました。季節ごとに異なる室温変動、水回りや通風の課題、そして古い構造がもたらす音や風合い——そのすべてが「どうこの家を再生し、新しい価値を生み出せるか」という問いを突きつけてくれた時間だったように思います。
住み始めて約半年過ぎたころから、私たちは設計士と共に議論を重ね、改修計画は四月ごろ固まりました。そして見積依頼と工事請負契約の締結から着工。もう「どう直すか」を迷う段階ではありません。今や現場は、私たち施主、設計士、そして地元工務店が対等なパートナーとして一つのゴールへ向かう場となりました。工務店の職人さんたちは、この地域の気候風土や昔からの施工手法をよく知り、設計士は新たな技術とアイデアを注入する。私たち施主は、この一年半で得たリアルな生活者目線の知見を提供します。
かつては古木に頼る構造や不便な動線だったこの古民家も、耐震補強、断熱改修、設備更新を経て、新たな息吹を吹き込まれようとしています。過去の時間が堆積した梁や柱は、その存在感を残しつつ、現代的な機能性と調和する設計が施される予定です。生活者としてここに住み、一年を費やした私たちが感じた「こうなったらいいのに」という思いは、設計者と工務店の知恵と技によって、ゆっくりと形になっていきます。
この段階になるまでに、簡単な道のりではありませんでした。イメージしていた理想と、現実的な制約、そしてこの家がもつ独特の存在感をすり合わせる作業は、何度も壁にぶつかるプロセスでした。しかし、今ははっきりと、「この家ならではの新しい暮らし」が具体的に見え始めています。まだ工事は進行中、仕上がりを目にするまでにはまだまだ時間がかかりますが、ここに至るまでの過程そのものが、このプロジェクトの価値なのかもしれません。
次回の投稿では、実際に工事現場で何が起きているのか、どのような工夫や職人技が注ぎ込まれているのか、そして私たちが目指す「新たな住まい」の輪郭がどのように浮かび上がってきているのか、もう少し踏み込んでお伝えしたいと思います。一年半という歳月を経て育まれた「三者対等のものづくり」、そのリアルな一端をご紹介できれば幸いです。